「正解」を探し続けた18年。そして気づいた、たった一つのこと。
百貨店のバイヤーとして18年。
私は「正解」を追い求めてきた。
どのブランドを仕入れれば売れるのか。どの価格帯がお客様に刺さるのか。どんな売り場を作れば数字が上がるのか。
毎日、答えを出すことに必死だった。
でも、42歳で独立したとき、すべてがひっくり返った。
コンセプトのない商品は、売り場に並んだ瞬間に死ぬ
独立して最初に立ち上げたブランド「encolorage」。 40代女性に向けて「今を生きる」というメッセージを込めた。
でも正直に言う。
最初は、コンセプトなんてものは飾りだと思っていた。いい商品を作れば売れる。それがバイヤー時代に染みついた「正解」だった。
違った。
売り場に並んだ瞬間、お客様の目は商品を通り過ぎていく。なぜか。
「何を買うか」の前に、「なぜ買うのか」がないからだ。
今、情報は洪水のように流れてくる。新しい商品、サービス、マーケティング手法が毎日生まれては消えていく。
その中で人の心に残るものには、ある共通点がある。
「芯」があるかどうか。
その芯を言葉にしたもの。それがコンセプトだ。
「ただの」と「物語のある」の違い
ファッション専門学校で教えていると、学生たちがよくこう言う。
「Tシャツのブランドを作りたいです」 「カフェを開きたいです」
悪くない。でも、このままでは埋もれる。
こう変えてみる。
- ただのTシャツ → 「着る人の物語を映すTシャツ」
- ただの料理教室 → 「家庭の食卓をアートに変える教室」
- ただの本 → 「問いの力で未来を変える本」
たった一行。でも、この一行があるかないかで、人の心に届くかどうかが決まる。
なぜ、コンセプトが作れないのか
長年教育に携わって気づいたことがある。
日本の教育は、「正解」を教える。テストには正解がある。先生の言うことが正解。マニュアル通りが正解。
でも、コンセプトメイキングに「正解」はない。
だから多くの人がつまずく。
よくある失敗を見てきた。
流行語を並べるパターン。 「AI活用によるサステナブルで未来志向なDXソリューション」
耳障りはいい。でも、何も言っていないのと同じだ。誰の、何を、どう変えるのか。それが見えない。
抽象的すぎるパターン。 「私たちはファッションを通じて顧客のライフスタイルを豊かにします」
間違ってはいない。でも、印象に残らない。隣のブランドも同じことを言っている。
自分語りパターン。 「昔から服が好きで、その楽しさを伝えたくて」
情熱は大切。でも、それだけではお客様には届かない。
これらの失敗の根っこは、すべて同じだ。
「良い問い」がない。
誰に届けるのか。なぜ今なのか。他と何が違うのか。
この問いを深く掘り下げていない。
QECCメソッド――「問い」から始まる創造
私は「QECC」というメソッドを開発した。
Question(問い)→ Eye(視点)→ Create(創造)→ Change(行動・変化)
この順番には意味がある。
Q:問いを立てる
すべては「問い」から始まる。
学校では「答え」を求められる。でも、本当に価値あるものを生み出すには、まず「問い」を立てなければならない。
核となる3つの問い:
- この商品は、誰のどんな未来を変えるのか?
- なぜ「今」やる必要があるのか?
- 世の中に溢れる選択肢と、何が根本的に違うのか?
カフェを開きたいなら、こう問う。
「美味しいコーヒーを出す」ではなく、
- 人はなぜカフェに行くのか?
- 家ではなくカフェでしか得られない体験とは何か?
- 現代人が本当に求めている「場」とは?
答えを急がない。問いの質が、コンセプトの質を決める。
E:視点を増やす
一人の頭で考えていると、発想は必ず行き詰まる。
4つの視点を意識する。
- 歴史的視点:過去の類似事例はどう進化したか
- 業界横断視点:異なる分野ではどう実現されているか
- 未来的視点:技術や社会の変化はどう影響するか
- 顧客視点:実際のお客様はどう感じているか
今はAIという強力な「視点提供者」がいる。ChatGPTに問いを投げれば、世界中の事例を瞬時に集められる。
でも忘れないでほしい。AIは「答え」ではなく「視点」をくれる道具だ。最終的に「芯」を決めるのは、あなた自身。
C:言葉にする
問いと視点が揃ったら、言葉として立ち上げる。
条件は3つ。短く。覚えやすく。比喩的に。
- 「ただのカフェ」→ 「日常をリセットする秘密の書斎」
- 「ただの服」→ 「まだ見ぬ自分に出会う服」
- 「ただの本」→ 「問いが未来をひらく辞書」
感情に訴える。具体的なイメージを喚起する。行動を促すエネルギーを込める。
C:現実に落とし込む
言葉だけでは、まだ何も変わらない。
コンセプトは、体験として形になって初めて力を持つ。
- 具体化:デザイン、空間、サービスにどう反映させるか
- 検証:小さな実験で市場の反応を確かめる
- 改善:フィードバックを受けて磨き続ける
言葉を現実に。そこまでやって、初めてコンセプトは完成する。
「芯」を持ったブランドは、時代を超える
シャネルは「女性を束縛から解放する服」。 ユニクロは「服を変え、常識を変え、世界を変える」。 Appleは「Think Different」。
数十年愛され続けるブランドには、必ず「芯」がある。
素材が良い。デザインが優れている。それだけじゃない。
背後にある「なぜ」が強烈だから、人の記憶に残る。
今日からできる、たった一つのこと
難しく考えなくていい。
今日、目にした商品やサービスを、自分なりの一行コンセプトにしてみる。
既存のキャッチコピーは見ない。自分の言葉で考える。
「なぜ人はこれを買うのか?」と問い、 「〜のような」と比喩で表現してみる。
毎日続けると、世界の見え方が変わる。
「答え」を探す目から、「問い」を立てる目へ。
最後に
私は57年生きてきて、確信していることがある。
「良い問い」の前には、「正解」は無力だ。
AIが答えを出せる時代になった。だからこそ、人間にしかできない「問い」の力が、かつてないほど重要になっている。
あなたの「芯」を立ち上げる一行。
それが、世界を変える最初の一歩になる。
問いの力が、あなたの未来をひらく。


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